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手紙、手書き、言葉のセンスと文章力を高める手紙文化振興協会

手紙寺/證大寺 井上城治様に聞く、手紙で心を整える

手紙寺/證大寺 井上城治様に聞く、手紙で心を整える

 

今回は證大寺(手紙寺)の二十世住職である井上城治様にお話をうかがいました。

東京都江戸川区にある證大寺は承和二年(西暦835年)発祥、

創立1200年もの長い歴史を誇る大きなお寺です。

東京江戸川区のほかに千葉県船橋市、埼玉県東松山市に霊園があり、

中央区銀座にある手紙処GINZAでは朝昼晩の一日3回、お経と法話の時間を設けているほか、

仏教を身近に感じるイベント等を多数、開催しています。 



人生を変えた父からの手紙

手紙参りで故人とつながりを深める



■むらかみかずこ

本日はありがとうございます。

まずはご住職の手紙とのご縁について教えてください。

今は亡きお父様とご住職をつないでいるものが「手紙」であるそうですが、

具体的にはどのようなものなのでしょうか。


●井上住職 

私がこれまでの人生を振り返り、まず一番に思い出されるのが、

先代の第十九世住職である父からの手紙です。

十代の頃、やんちゃだった私は

父に反発するばかりでまともに会話したことがありませんでした。

しかし、二十歳を少し過ぎた頃、突然、父が病に倒れたことで、

これまでそっぽを向いていた現実、

つまり、寺の住職として後を継ぐという運命と

否が応でも向かい合わざるを得なくなったのです。


そんなときです。ある夜、ふと父が夢枕に立ち、

「本堂の仏像の上、お前に宛てて書いた手紙をしまっておいた。読んでみろ」

というのです。

「本当に?」と狐につままれた面持ちで、みなが寝静まった頃、真っ暗闇の中、

ひとり脚立を使って本堂の屋根裏を探すと、

なんと、まさにその場所に父からの手紙が隠されていたではありませんか!


書かれていた言葉はシンプルなものでした。

「後継に告ぐ 證大寺の念仏の灯を絶やすな」


私はこの言葉に打ちのめされました。

「もう迷わない」。悶々と抱えていた悩みが一瞬にして吹き飛び、サッと視界が開けた瞬間でした。


■むらかみかずこ

證大寺さんの発祥は西暦832年、創立1200年もの由緒ある立派なお寺です。

そのお寺の二十世住職ともなれば、

並々ならぬ重責を感じて苦しむとしても何も不思議はないと想像します。


2017年に千葉県船橋市の御坊(船橋昭和浄苑)に

「手紙処」という故人に宛てて手紙を書く空間を設けたそうですね。


さらには、「手紙標(てがみしるべ)」という、

作家、芸術家などの著名人が実際に家族や知人に宛てて書いた手紙文を印字した

道標を設置していらっしゃいます。


いずれもパンフレットを拝見して、モダンでロケーションもよく、

佇まいに気品が漂うことに感銘を受けました。

これらはどのような思いで作られたのでしょうか。

 

●井上住職

霊園に「手紙処」という場を設け、「手紙標」を設置したのは、

簡単に申し上げれば、お墓参りに来た折に手紙に触れあってほしい、

そして、故人に手紙を書いてほしいと願っているからです。


故人に書く手紙というと、なんだか大それたことのように感じるかもしれませんが、

特別なことでなくともよいのです。


「先日はこういうことがあった」

「家族にこんなことがあった」

といった何気ないことでも、故人に語りかけることで心がスッとしずまります。


故人を想像しながら語りかけること、

それは自分自身と向かいあい語りかけることでもあり、

それこそが故人に対する本来の祈りであると考えます。


この船橋の「手紙処」は建築デザイナーの先生のご尽力もあり、

アメリカの建築専門誌が主催するアワードにおいて2017年度の最高宗教建築賞を獲得しました。


■むらかみかずこ

それはすごい。世界規模で注目を集めているという証明ですね。


私の場合も、お墓参りに行くと何か気持ちが落ち着く、

心がホッと安らぐ感覚を覚えることがありますが、

その「ホッと安らぐ感覚」は手紙を書いたあとに得られる感覚とまさに同じだと感じます。

なんといいますか、心の深い部分が少しやわらかくなるような気がするのですよね。


実際に「手紙処」で手紙を書く方からはどのような声が聴こえていますか。


●井上住職

手紙処でつづられた手紙は、当院で焚き上げ、浄土へ配達しています。

これが「手紙参り」です。


手紙参りをされた方からは、

「本当はこんなふうに語り合いたかった。そんな会話がここで初めてできました」

「手紙を書きだすと、語り合っている気がします」

「ごめんなさいと書くつもりが許しを得た気がして、ありがとうと書きました」

といった声をいただいています。


いずれも故人の喜ぶ顔、やさしく見守る顔が目に浮かぶようで、すばらしい供養になったと感じています。

 

■むらかみかずこ

亡くなった方の手紙というと

「遺言書」や「ラストレター(旅立つ前に家族に送る手紙)」が思い浮かびますが、

今を生きる私たちが故人に向けて手紙を書き、心を整える。

明日を生きる活力をもらうという点で、非常に興味深く感じます。

それはまさに手紙の力ですね。


また、故人に手紙を書くことは仏教の教え(今を生きる)にもつながるとうかがい、

ご住職のお考えにより一層、共感を覚えます。


私自身も、日々の仕事や生活の中で、

あわただしいときを過ごしているときにあえて手紙を書く時間をつくると、

たかぶった感情が穏やかになるのを感じます。

相手の顔を思い浮かべ、過去に交わした会話の内容を思い出し、

「ありがとう」「おめでとう」「またあらためて」「ご縁」「感謝」

といったよい言葉をつづっていると、自然と思考が前向きになり、癒されるのです。


船橋市のお坊にある「手紙処」のほかに、東京・東銀座には「手紙処GINZA」を開いていらっしゃいますね。

 

●井上住職

「手紙処GINZA」は都内に通勤、お住いの方が気軽にお参りに立ち寄れる場所として開設しました。

手紙を書く場所としてのスペースのほか、手紙や仏教関連の書籍を蔵書しており、

契約者様の大人の書斎としても活用していただけます。

 

■むらかみかずこ

「手紙処GINZA」は当協会も座学講座を実施する際に使わせていただいております。

駅からも近く、都会のど真ん中にありながらも落ち着いていて、

「え、こんなとこに?」と思わず人に伝えたくなる場所ですね。


今回、ご住職の「手紙」に対する思いをうかがい、

「手紙というもの」がいかに人を惹き付ける強い力を持つものか、あらためて実感しています。


本日はありがとうございました。

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